LOVER INDEX
#10デュオとヒイロ
「ヒイロとお姫様ってどういう関係だったのですか?」
「は!?」
結局、デュオとここ数日、行動を共にしていた。
そんな、三人で食事をしていた席でのことだ。ヒイロは席を立っていて、この場には居ない。
「だから、お姫様とヒイロは普段はどうだったのでしょうか?」
「どうって…オレの目から見ると、なんていうか、…」
リリーナはデュオの答えを嬉々として待っている。
何だ、一体?
デュオは疑問の目でリリーナを見る。
「当時のあいつは、姫に対する忠誠心以外は自分の事すら見えているのか?ってくらい、投げやりだったというか……何しろ流石に、姫だし。…直接目の前で見たことはないからなぁ」
「そうですか…」
「どうしたんだ、突然?」
デュオが手に持っていたグラスを机に置いた。
「ヒイロがたまに空を黙って見つめていたりするんですよ」
「はぁ??あいつが??だから、姫のことを考えているのかと?」
リリーナが頷く。
あいつが、姫を?…どうしてもそうは考えられない…どうせ、また物騒なことでも考えていたのではないだろうか。
「ヒイロは姫のことが好きだったのですよね?」
「え!?…そうだなぁ…」
言葉に詰まる。確かに、散々姫との事で茶化したりもした。
そう、あの頃は本当にヒイロは、姫のことしか見ていなかった…ような気がした。…周りでも噂にはなってはいたが、自分の目からもそう見えたのだ。…確かに。
でも、今は何故だか素直に「そうだ」とは言えない。
ここ数日行動を共にしていて、ヒイロに以前とは違う、…違和感を感じるのだ。何が違うのかと聞かれると、具体的にどうとは言えないが。
現に、自分に対する態度は、昔とそう変わらない。
「それは、そうと、お嬢さんはいい場所が見つかった?」
「…そうですね。…世界を周っていて…『EARTH』をどこに移せばいいのか……解らなくもなります。本当は、動かさない方がいいのかもしれないとも、思います。OZの中にも、信じられる人が居ることをしりましたから。でも、そうは言っても世界はこれだけ戦いが今も起こっているのも事実です。」
リリーナは軽く息を吐くと続けた。
「…いっその事『EARTH』を、地上に降ろすべきなのかもしれないと、カトルさんが紹介してくれた王様ともいろいろ、話しをしました。どうするべきなのか、王もわたくしと共に話し合ってくれました。難しい問題なのはわかっています。それでも、わたくしは、探さなければなりません。世界が、皆が幸せになる方法を、必ず」
リリーナは、静かに、だがはっきりと言った。
そんなリリーナをデュオは静かに見つめ、やはりいくつも疑問が頭を過ぎる。今でも、解らないが、ヒイロが何故、彼女と共に居るのだろう。これだけ、まっすぐで曲がることを知らないリリーナの性格をあのヒイロが黙って共に居ることが不思議だった。彼が、今まで命を賭して護ってきた姫とはだいぶ違う。
まぁ、それはおいおいゆっくり聞いてみようと思う。とりあえず、今は飲むことにした。折角ヒイロも居ないのだ。亡国とは言え、リリーナも姫だ。そんな彼女と二人っきりで酒を飲めることは、幸せなことだ。
「そうか、…まぁ、ゆっくり周ればいいさ!あいつがお姫さんの所に、戻りたいって言うんだったら戻ればいいさ。これからは、俺もいるんだし」
デュオは満面の笑みを浮かべグラスの中身を一気に飲み干した。
それに対してリリーナは、フフフと、静かに笑っていた。
「ところで、ヒイロとデュオさんはどうやって知り合ったのですか?」
「知り合ったって言うか…同じ世界の人間だったって感じかな。別に昔だって今だって、仲間って訳でもないしさ」
「一緒に旅をしたこともあるのですか?ヒイロのことを良く知ってますよね」
「少しだけ、仕事で旅って言うより行動を共にしたって感じだけどな」
デュオは自分でボトルの中身を注ぎながら言った。
「ヒイロのことが好きなのですね」
「………は?」
一瞬、意識が飛ぶかと思った。誰と誰が仲が良いと?好き?…なんだって?
「どうやったら、そこに行き着くんだ…」
頭を抱えながらデュオが言った。
それに対してもリリーナは静かに笑っていた。
「おやすみなさい」
そう言って、静かに閉まった向かいの部屋の扉を暫く見続ける。
驚いたことがここでもひとつ。
あの、ヒイロが他の誰かと同じ部屋に居る。それが、例え羽ビトだとは言え。
ここ数日こんなことが多々あった。
違和感を感じるのは、ヒイロがリリーナに接することに関してが、殆どだったような気がする。確かに、リリーナのことも俺たちと同じように冷たくあしらってはいる。
ただ、それは、表面上でのことではないのだろうか?
一度そう、疑問が頭をよぎってから、言えなくなった。姫に関すること、全てを。今では、本当にOZの王宮護衛騎士だったのかと疑いたくもなる。当時散々疑ったことだが。あれは全て任務だったのではないかと言うことが、再び頭を過ぎる。もし、あのこと全てがヒイロの演技だったとすれば、真に恐ろしい奴だと思う。あのカトルでさえ最後は本当に、王室護衛騎士になったと信じたのだ。
しかし、当のヒイロは当時も今も、何も語らなかった。ただ、全身で態度で示した。疑う余地さえないほどの、姫に対する忠誠心を。自分の全ては姫のものだと示していた。
「何か用か?」
「うぉ!!少しは気配を出して来いよ!」
驚いた。後ろにヒイロが居た。
しかし、ヒイロはそんなデュオを放ったまま部屋に黙って入っていってしまった。
「……あいかわらず、わからない奴」
そして、次の日の朝。
居なかった。
「もぅ、出た!?」
「ええ。昨日の深夜にチェックアウトされていますね」
ホテルマンが資料を見ながら伝えてくる。
「深夜?」
昨日のことを必死に思い出してみる。
昨晩、部屋に入って行ったヒイロの手には、大量な荷物が握られていたような気がする。
「あの、野郎!!!!!」
デュオの叫びがホテルに響いた。
2004/5/24