LOVER INDEX

#14星と空とを海で割ったようなプルシャンブルー7


 そして次の日。
 
 船は大変な騒ぎになっていた。
 深夜に一報が入ったのだ。
 カーンズたちを乗せた列車が思わぬ場所で、OZによって強襲にあったと。
 そして、今尚も、交戦中だという。
 それにより、船では本国聖都をはじめとして、数多くの組織と連絡を常に取り合っている状態なのだ。
 デュオやラファエルを初めとした多くの人たちは、その為に昨晩から殆ど徹夜状態で対応に追われていた。

  しかし、必然のごとく、リリーナには一切このことは伏せられた。

 

 そして、リリーナの方はと言うと…―――

 リリーナは日もまだ昇らないような時間に、部屋でまだ眠っていたところに突然シスターたちがやって来たと思った途端、教会の決まりだからと、今から沐浴をするからと、そのままバスルームに半強制的に連れて行かれたのだ。
 しかしバスルームとは言っても、教会の船だけあってとても簡易的な造りだった。バスタブなどはなく、有るのは大きなタライとお湯が並々と入ったバケツが3つだった。教会での沐浴は本来お湯ではなく、水だという。つまり、シスターたちが気を利かせたということらしい。
 確かにとても有り難いことは有り難いのだが、わたくしからすれば、朝早くから苦手の水を散々浴びることになるとは、思わなかったので、何故だかそこまで喜べない自分が居る。
 
 シャワーならば良い。
 だがこれはシャワーとは程遠いい―――…とわたくしは思うのだけど。
 
 シスターたちは羽ビトではない。だから知らないのだ。翼はとても敏感で、そこまで水で塗らされることを嫌うことを。

  しかし、そうは思っても、とき既に遅い。
 だから、激しいシャワーだと無理に納得させた。

 翼はたっぷりと水を吸い込んでいて重くてどうしようもない。

「姫様、折角ですから髪と翼も洗いたいと思いますが宜しいですか?」
「いえ、もう自分でやるから大丈夫です」
 リリーナはそそくさと服を着ながら、一応断ってはみる。正直朝からこれ以上、水を被りたくはないのが本音だ。
 だが、シスターは予想通り駄目だと言ってきた。翼は特に相当痛んでいるから手入れをしないと駄目だと。
 はぁ、とシスターたちに気付かれない程度に小さく息を吐く。

 ズボンとノースリーブの上着を着たところで、背もたれが後ろに倒せるように作られている椅子に座る。翼の手入れなど、『EARTH』を出て以来なので本当に久しぶりだ。
「では、まず髪を洗いましょう」
 やはり翼だけではなく髪も洗うのかと、内心で溜息をつく。
「では、外しますね」
「ええ」
 大して意識もせずにそう答えた。
 これが終わったら早々にラファエルに会い、刀を返してもらおうだとか、この後どうするべきかといろいろ考えていたせいだ。

 だから、耳に触れられたところで、ようやく何かがおかしいことに気が付いた。
「外す?」
 リリーナが突然呟いた。
「ええ」
 シスターが突然何だと問うて来るが、リリーナはそれを放ったままガバッと席を立つ。
 そして、そのまま鏡の前に一直線に向かった。
 途端――――息が止まる。
 あるはずのないものがそこにある。


「何故―――?」
 リリーナはバッと勢い良く振り返ると、辺りを見回した。
 シスターたちが困惑した表情を浮かべこちらを見ているが、リリーナは気にしない。

 いつから、ここにあったのだろう?

  渡した直後。
 いや、それはない。すぐに否定した。
 では、薬で眠らされている間。昨晩寝た後。
 どうだろう―――分からない。
 自分の右耳に触れた覚えなんて、まるでない。
 
  動悸が途端に激しくなった。
 
「居るの―――?」


 思わず問うてしまったとき、突然ノックもなく扉が開いた。
 一気に皆の注目が集まる中、現われたのは、ジェイクだった。
 ジェイクはまたしても許可を得ず、そのまま部屋に入ると止まることもせず、ズカズカと一直線にリリーナに向かって歩いてきた。
 その様子にシスターたちが激しく出て行けと怒りを露にしているが、聞く様子はまるで無く、すぐにリリーナの横にまでやって来た。
「おはようございます。姫君」
 ジェイクは、尚も声を荒げ続けるシスターたちなどまるで無視した態度だ。
 リリーナは、そんなシスターたちを軽く制した。
「何か用ですか?」
「用って、姫君にお会いしに来たに決まっているではないですか。昨日もそう、お伝えしましたでしょう?お忘れになりましたか?」
 ジェイクは昨日と変わらず嘲笑したように告げてくるが、リリーナの表情は変わらない。
「その時間は無いと、わたくしは既に伝えました」
「だから今、伺ったのではないですか!今ならば皆忙しいようなので、昨日のように他に邪魔も入りませんし」
 ジェイクはどこか含んだようにそう伝えてきた。
「忙しい?」
 リリーナが僅かに聞き返すが、ジェイクはそれには答えず、更に一歩近づいた。
 そのことにより、とうとう横に控えていた機械人形のセンサーが反応した。それまでは、機械人形が反応しないぎりぎりの距離を保っていたのだ。
 機械人形は、リリーナを護るよう二人の間に割って入ろうとした次の瞬間、激しい音と共に壁に叩き付けられた。
 
 ガシャァァン!!
 
 同時にシスター達から悲鳴が上がるが、ジェイクはそれには構わず、即座に立ち上がろうとする機械人形を背中から一突きにした。
「ジェイク!」
 リリーナは止めるよう怒鳴ると、機械人形の傍に駆けよった。
 一瞬のことで本当に止める間もなかった。

 辺りから更に悲鳴が上がると、ジェイクは次に銃を抜いていた。
「止めなさい!」
 リリーナは更に怒鳴り、ジェイクを鋭く睨み付けた。
「話をしてくださる気になりましたか?」
 ジェイクは涼しい顔をしている。
 リリーナが辺りを見るとシスターたちは震え上がっていて、腰を抜かしている者までいる。
「いいでしょう。でも、彼女たちは外に出してください」
 ジェイクは笑みを浮かべながら僅かに頷くと、銃をホルスターに戻した。
 しかし、シスターたちが部屋を出ると、今度は外で控えていた別のホワイトファングの者たちに囲まれていた。
「どういうことですか!」
 リリーナは鋭い視線を向ける。
「姫様との話が終わるまで隣の部屋で静かにしていてもらうだけです。彼女たちに手荒な真似はいたしません。ご安心ください」
 ジェイクは深々と頭を下げてきた。
「彼らに何かをした時点で、全てが終わりだと思いなさい」  
 リリーナはジェイクに強くそう言った後、シスターたちに視線を向けると、誰もが心配そうな表情を向けてきていた。だから、微笑むことでそれに答えた。

 
 そしてリリーナは再び、壁に刺されたままの機械人形に視線を移す。
 彼女はピクリともしない。
 顔を覗くと僅かに光が点滅してはいるが、全く反応が無く、装飾が無残にも剥がれ、内部が痛々しく晒されている。
 リリーナはその様子に眉を寄せ、聴覚はどうだろうかと声を掛けようとした瞬間、全身にビクリと震えが走った。
 勢い良く振り返ると、満面の笑みを浮かべたジェイクが立っていた。

「感じましたか?」
「!」
 一瞬怒りで、ジェイクの頬を叩きそうになった。
 
無礼に触れられた。
無礼に翼に触れられたのだ!
 
「本当に小さいんですね」
 先程から続く、あまりの嘲弄に怒鳴りそうになるが、目の前の人物も恐らくそれを期待してやっていると思われるので、何でもなかったように接する。
「一体、貴方は何がしたいのですか?」
「率直に言うと、カーンズ様からある任務を仰せつかっておりまして」
「任務!?」
 話が全く読めない。
「ですが当然のようにラファエルはそれには反対でして。ですから、奴が居ない場所で、お会いしたかったわけですよ。だというのに、昨日から本当にラファエルの奴が、貴方の傍を離れないから苦労しました」
 あのラファエルが反対するような任務など、余程酷いものに決まっている。
「まぁ奴は元々、自分とは違いカーンズ様についている訳ではないですから、仕方ないのかもしれませんが」
「ホワイトファングでも勢力が別れているということですか」
「そう言うわけではありません。カーンズ様はあくまで、代表代理だということです。別に代表とカーンズ様は意見が別れている訳ではありません。ラファエルは本来の代表を支持し、自分はカーンズ様を支持しているというだけです」
 
  ジェイクが更に一歩近づき、顔を覗き込むようにしてくるが、リリーナは鋭く視線を向けるだけだ。
「だって、そうでしょう?代表なんて今では、生きているかどうかさえ分からないんですよ?連絡も何も無い。皆探してはいますが、見つからないわけですし。―――姫君も居所をお知りではありませんか?」
「何のことを言っているのですか」
 リリーナの表情はますます険しくなるばかりだ。 そしてそんなリリーナにいたく満足したように、ジェイクは今以上に口の端を歪め、大げさに告げる。
「決まっているではないですか!代表である貴方のお兄様の居場所を知らないかと、聞いているんです」
 ジェイクの言葉で、それまでピクリとも動かなかったリリーナの表情が一気に驚愕したものへと変わった刹那。
 突然ジェイクはリリーナの首を一瞬で掴むと、乱暴に壁に押し付けた。
「っ!」
 痛みに声が漏れた。

「ようやく、表情を変えましたね」
 ジェイクは至極満足した様子で、首をガッシリと押さえつけたまま囁いてくる。
 一瞬の隙に入り込まれた。
 当然だ。
 だって、兄だと言っていた。兄がホワイトファングの指導者で、更に現在は行方不明だという。何が何だか分からない。

  だが今はそんなことよりも、自分のこの状態を何とかせねば。首がミシミシと悲鳴を上げている。
 ジェイクの掴んでいる腕を剥がそうとするが、本当にピクリとも動かない。

  一瞬、ジェイクを魔導で吹き飛ばそうとも考えたが、昨日の様子からもみて、今の自分の状態はかなり良くないのだ。
 不安定で制御することすら困難で。
 更に良くない事に、先程の沐浴で、翼がある意味、ずぶ濡れなのだ。こんな状態では魔導どころではない。
 本当にどうしようもない自分の状態に、情けないばかりだ。

  兎に角今は、ジェイクにそのことだけは知られないようにするためにも、落ち着き払った態度で接する。
「何の真似です?」
 首をかなりの力で掴まれているため、とても息がしづらく、僅かに声が擦れた。
「昨日言いましたよね。姫君にお会いするのを本当に楽しみにしていたと。何故だと思います?」
 そんなこと知るわけが無い。

 ジェイクは顔を突き出し、僅かに額が触れた。
「カーンズ様から任務の内容を聞いた途端、今すぐにでも姫君にお会いしたくて、たまらなくなりまして」
 ジェイクは心底楽し気だ。
「彼は一体、何と?」
「姫君は想像以上に強情で、言うことを聞かない我侭姫だから、聖都に着くまでに、もう少し素直になって頂くよう、任務を受けました」
 ジェイクの言葉を聞き、そんなことを彼らは考えていたのかと、内心密かに思う。確かに彼らから見れば、自分は相当扱い辛いだろうという事は真実だ。

  しかし、それでもまさかそんなことを任務として告げるとは!
 それでもサンクキングダムの騎士かと怒鳴りたくもなるが、相手もそれを待っているのだ。素直にそんなことをするわけにもいかない。

  怒鳴り出したい衝動を必死に殺し、優雅に笑う。
 この上ないほどの笑顔で。
「わたくしに素直になれと?貴方方の意見に従うことが素直だと?言っている意味が良く分かりません」
「そうきますか。まぁ、カーンズ様でも手を焼く方だ。こちらもそんな簡単に折れるとは考えてはおりません。ですから、心底楽しみにしておりました」
 ジェイクは更に近づき、息が掛かる距離まで顔を寄せると残酷に微笑んだ。
「何しろ、これだけ美しい姫君が苦痛に耐える姿や、情欲で乱れた姿を私は堪能することが出来る訳です」
 リリーナは顎を引き、強烈な光を称えた瞳で一歩も怯むことなく頑固に睨む。
「壮絶な美しさですね。ですが…素直でない女は好みでは有りません。早速私好みに調教といきましょうか」
 ジェイクはそう言ったのと同時に、首を掴んでいる腕とは逆の空いている方の手でリリーナの右手の人差し指を突然握ると、何の前触れも無く、本来指が曲がる方向とは逆の方向へと、一気に曲げた。
「!」
 途端に強烈な痛みが襲い掛かってきた。
 リリーナは思わず瞬間的に魔導をジェイクに放ってしまうが、彼が身につけている耐魔用の衣類のこともあるのだろうが、やはり大した効果が無い。
 翼が濡れていても、魔導が使えないわけではない。波が激しいと言うことだ。つまり、全く魔導が発動しない場合もあれば、一歩間違えれば、船全体を吹き飛ばしかねないということもあるという諸刃の刃。
 しかし、今はとてもではないがそんな力が発動するような状態ではないらしい。

 それでも、首はようやく開放され、僅かだが距離が開いた。
「おやおや、痛くて魔導も定まりませんか」
 勝手に言わせておけばいい。
 水が苦手なんてことが知られれば、自分にとっては命取りだ。

 
 ジェイクはニタニタと笑顔を向けながら一歩一歩近づいてくる。
 リリーナは壁にもたれながら、唇をギュッと噛む。右手の全体が痛くて全く感覚が無い。人差し指が明らかにおかしな方向に曲がっていて、触ることすら躊躇してしまう。

  ズキンズキンズキンズキンズキンズキンズキンズキン

  たかが指を一本折られただけでこれだけ息が苦しく、額から汗が浮き上がっている。
 こんな時、ヒイロは本当にすごいと思ってしまうのは、私の勝手だろうか。
 ヒイロは、どれだけひどい怪我を負おうが、眉一つ動かさずに平然と戦っていた。本当に、自分のせいでどれだけひどい怪我を負ったか分からない。
 自分はずっと護られていた。
 何かあったら全力で行けと言われたにも関わらず、それさえも出来ずにいる自分。
 ヒイロは、わたくし以上にわたくしを知っていた。


 全く!何だというのだ!
  こんな所に、いつまでも居る場合ではないというのに!
 自分はまっすぐにそこへ向かうと誓った!彼らと!
 自分のためだけに力を、命をくれた機械人形たちと!
 突如、何かがキレた。

  一言の相談もなくこんな所に連れてきたデュオ。
 どこでもかしこでも襲ってくるOZや賞金稼ぎたち。
 勝手なことばかりを言ってくるホワイトファング。
 目の前で、ひどいことばかりを続けるジェイク。
 危ないからと刀を持っていってしまったラファエル。

  何故、渡したはずの自分のピアスが今、自分の耳にあるのか!


 全てにいつもならば決して感じない怒りが、ふつふつと湧いてきた。

  こんな指くらい、どうってことはない。
 羽の拘束具を着けた時の痛みは、こんなものではなかった!

 リリーナは怒号を込めた視線を目の前のジェイクに向ける。
 そのあまりの様子の変化に、ジェイクはピクリと眉を寄せる。
「そんな瞳で見詰められては困ります。私を誘っているのですか?あとで嫌だと助けを呼んでも、今は忙しくて誰も助けに来ないと言うのに。素直になった方が貴方の身の為―――」
「黙りなさい。これ以上の発言は許しません」
 リリーナは茶化すジェイクの言葉を遮り、頑として言い放つ。
 リリーナは本当に怒っていたのだ。

「ほぉ、そんな口をおききになるとは…どうやら本気で痛い目にあわないと分かりませんか。覚悟し――」
「発言は許さないと、言ったはずです」
 そんな一向に変わる様子のないリリーナの反抗的な態度に、ジェイクがとうとう痺れを切らす。
「姫君…私の優しさは分かりませんか?わざわざ、今も怪我をされている右手を選びましたのに。それならば、今さら怪我が1つや2つ増えようが、他の者も不信に思いませんし」
 ジェイクは芝居がかった態度で大げさに溜息を吐く。
「全く、あまり大げさにやると、他の者にも悟られますが、仕方ありませんか…。では、手始めに髪でも頂きましょうか?」
 ジェイクは独り言のように呟きならが、機械人形に突き刺さったままの剣を力一杯引き抜く。
 リリーナも全く逃げる様子もなく、強烈な怒りを込めてジェイクを睨んでいたその時。
 ――――唐突に怒りが引いた。

 何故ならば『ソレ』の方が、リリーナなどよりも遥かに凍えるほどに鋭い怒りを放っていたからだ。
 思わず、何をそんなに怒っているのかと問いかけたくなるほどの怒りを―――


 ジェイクは剣を適当に握り、そのまま襲い掛かろうと視線を移すと、リリーナはそれまでの怒りはどこにいったのかと疑問を抱きたくなるほどの、全く別の表情を浮かべていた。
 そして、そんな彼女は自分ではない、別の何かを見詰めていたのだ。
 途端に冷やりとしたものを感じる。

  リリーナは自分の後ろを凝視しているのだ!

  ジェイクは振り向くこともせずザッと、力の限り避けようとしたが遅かった。
 
 ザン!!

 一瞬の間に背中の片翼が斬り落とされた。
「ガァ!ツゥ…何だと!」 
 ドサリと床に切り落とされた真っ白な翼は鮮血で染まり、真っ赤だ。
 その光景にリリーナが一瞬息を呑むが、すぐに目の前を別の物で遮られた。
 ジェイク越しに見ていたその人物が、自分を背にするように瞬く間に目の前に現われたからだ。

  声が出なかった。


  一方ジェイクは、斬り付けられた後、すぐに体勢を立て直し、今斬りつけてきた奴に視線を移すと、信じられない人物が立っていた。
 
「ラファエル!」
 ジェイクが相手を僅かに確認した途端、一直線に突っ込んできた。
「くそっ!ちょっと待っ!!」
 ジェイクは何とかそれを剣で受け流すが、脇腹に強烈な蹴りがめり込んできた。
「ガ…!」
 ジェイクはうめき声と共に血を吐いた。
 明らかに片翼を切り落とされているこの状況では。こちらの分が悪い。更に剣でのやり合いでは、どう考えても奴に勝つことは難しい。
 剣だけで見れば、奴の腕は四騎士の中でも飛びぬけている。
 しかし、そんなことよりもまさか片翼を切り落とされるとは!それもあれだけ、騎士道を通していた奴が背中から斬り付けて来るとはお笑いだ。
「いい機会だ、ここで殺してやる!」
 ジェイクはそう叫ぶと、力の限り魔導を放つ!
 自分は剣ではなく、魔導専門なのだ。手加減などせずに一撃で相手の息の根を止めるほどの魔導を放った。
 昔からあいつは、気に食わなかった!
 いつだって、姫姫姫姫と!!!希望通り、姫のために死ねばいい!!
 自分は、全力で放ったのだ!だというのに、相手はそれを避けもせず、一直線に突っ込んできた。それは驚愕なんてものではない!
「な!」
 目を見張った途端―――
 ガシャン!!
 扉を巻き込むようにして、背中ごと部屋の外まで吹っ飛ばされた。

「クソォ!ラファエルの奴、完全に頭に血が上りやがって!オイ!」
 ジェイクは壁に手を付き立ち上がりながら、廊下に居るはずの兵士たちを呼ぶが返事が返ってこない。
 廊下には誰も居なかった。
 否。そうではない。彼らは確かに居るのだが、動いていないのだ。生きているのかさえ判別出来ないほどに酷い状態で、兵士たちが廊下に重なり合うようにして転がっていた。
 背中を冷たいものが走った。
「お前、ま――――!!」
 ジェイクがそれについて口を開くよりも早く、相手は剣を突き出すようにして迫ってきた。
「グバァ!?」
 避ける暇など勿論あるわけもなく、次の瞬間、先程自分が機械人形に対して行ったことと同じ事をされた。

 グチャズッチャガッァシャ!

 痛みなどと呼べるものではないほどの何かが、一気に全身を駆け抜けた。
 
 気が付いたときには、廊下の壁に剣で右肩ごと一突きにされていた。
 血で塗るつく左手でそれを抜こうとするが、刺さった剣はピクリともせず、血だけが止めどなく溢れ続ける。
 ジェイクは意識を朦朧とさせながらも相手を憎悪の瞳で睨みつけたことで、ようやく真実を知った。
 自分が知っているラファエルにはあるものが、目の前の奴にはそれがないことを。

 そいつは冷徹な瞳で剣で壁に突き刺さっているオレを睨みつけたまま、銃を構えていた。




2005/6/1


#14星と空とを海で割ったようなプルシャンブルー8

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