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#14星と空とを海で割ったようなプルシャンブルー8


 目を疑いかけた。
 それほどまでに、似ている。
 否。
 似ているなんてレベルではない。まさしく本人だ。
 今、自分に向けて銃を構えている人物は、間違いなくラファエルだ。
 だが、次の瞬間、辺りに凛と響いた声でも、そうではないのだと、再度確認させられる。


「ヒイロ!」
 二人の動きが止まったことで、ようやくリリーナの声が通る。
 だが、呼ばれた本人は銃を構えたまま、何の反応も返してこない。
 だから再度呼びかける。もう、十分だろうという意味合いを込めて。
 そしてリリーナはそのまま、相手の反応を待たずに、殆ど意識を失いかけているジェイクに駆け寄ろうとしたが、即座に腕を掴まれ行動を止められた。それに対し、リリーナが抗議の声を上げようするが、辺りに響いたのは―――。

 銃声。
 放たれた弾丸は、ジェイクの左の手の平を容赦なく貫いていた。

 突然のことにリリーナの体は一瞬強張り固まるが、すぐに強い視線を、今、銃を放った張本人へと向ける。
 勝負が既についた相手に、更に追い討ちをかけるような真似をするなど!
 だが、相変わらず彼の彼女に対する反応は無反応だ。
 ただ、掴んだ腕だけは、緩む気配も無い。


 そんな相手にいくら言った所で無意味だとばかりに、リリーナは腕を掴まれたまま、半ば無理矢理ジェイクの全体が見える位置へと移動する。
「!」
 そこには、思わず目を覆いたくなるような惨劇が広がっていた。血の海だ。剣で貫かれた右手などは、今にも肩からそのまま千切れてしまいそうで、銃で貫かれた左の手の平は、血が溢れ続けて―――。
 そこでリリーナの思考が突然止まったのと同時に、瞳が静かに開かれた。
 見詰める先はジェイクの左手の指先。
 手の平から溢れ続ける血で、半分以上がそれと同化してしまっているが、そこにあったのは間違いなく。

 陣。

 血で途中まで描かれた魔導の陣だった。
 これが、もし完成されていたならば、こんな船など…―――。
 背中に冷たいものが走る。

 そんな、陣を見て止まってしまったリリーナに対して、ようやく腕を掴んだままの人物が口を開く。

「だから言ったんだ。全力で行けと―――」
 殆ど独白に近いようなその声に攻めるような響きはどこにもなく―――それでも、リリーナは整った眉を僅かに歪め―――その言葉を聞いた。


 そして僅かな沈黙が訪れる中、唐突に触れられた。
「っ!」
 途端に、全身がビクンとするほどに鋭い痛みが全身を駆け巡った。あまりの痛みに腕を無意識のうちに引き寄せようと動くが、掴まれた腕はピクリともしない。
 触れられたのと同時に、先程ジェイクによって折られてしまった指は、思い出したかのように、ズキズキと痛みを訴え始めたのだ。
 リリーナが勢い良く視線をジェイクから、自らの折れた指へと移すと、瞳が合った。
 深い深いプルシャンブルー。

「………………………」
 ヒイロが居る。目の前に。
 左耳には青いピアスが以前と変わらずにある。

 何故。何故。何故。


「完全に折れているが…どうする…?」
「え?」

 ヒイロの問いに、驚くほど気の抜けた声で聞き返してしまった事実に驚いたのは、他でもないリリーナだった。
 別のことにすっかり気を取られていた。
 そしてそんなリリーナの様子に別段気にした風も無く、ヒイロは淡々と続ける。
「一瞬、かなりの痛みを伴うが、平気か?」
「いえ、あ、それは構いませんが、わたくしよりもまず、ジェイクを」
 一瞬の痛みだとか、平気だとか、何を言っているのか実は理解が出来てはいないが、それよりもジェイクは完全に意識を失っており、尚も血を流し続けているのだ。誰が見ても、放っておいたら間違いなく命を落すほどの状態だ。それに比べれば自分の怪我など比べ物にもならないはずだ。
 だが、ヒイロは表情を変えることも無く、リリーナの発言の無視をする。
「ヒイロ!」
「気にするな。どうせしばらく死には…」
 再度のリリーナの言葉にヒイロがようやく答えようと、口を開いた次の瞬間!
「リリーナ!」
 突然、絶叫のようなヒイロの声が発せられたかと思った時には、ヒイロによってリリーナは床に叩きつけられるほどの勢いで、突き飛ばされていた。
 そして、突き飛ばされたリリーナが、床に叩きつけられるまでの間、目の前で起こったことはといえば。
 常人では考えられないような反応速度で、身を反らすようにして、突然飛んできた多数のナイフを、スレスレの所で交わし続けているヒイロと、そのヒイロの腕に、深々と一本のナイフが刺さった事実。
 その腕は、今、自分を突き飛ばす為だけに差し出されたのだ。

 リリーナは突き飛ばされた勢いのまま床に叩きつけられた。
 しかし、リリーナがそんな衝撃から回復する間もなく、ヒイロ目掛けて、一瞬で突っ込んできた。
 烈火のごとく怒りをたぎらせ、ラファエルが剣を構え突っ込んできたのだ。
「貴様!」
 ガシャァァン!
 激しい剣と銃とのぶつかり合いで火花が飛ぶ。
 ヒイロはナイフを右腕に刺したまま、ラファエルの剣を銃で流すように受け止める。
 ヒイロが持っていた剣は、ジェイクの肩に突き刺さったままだ。
「何故ここに居る!!!しかも、ジェイクを!!!!今こそ、その身を深海の底へと、沈めてくれる!」
 ラファエルの声は怒号に満ちていた。

「待って、ラファエル!」
 リリーナが叫ぶようにして名を呼ぶが、辺りに響き渡る轟音。
 ダアァン!!!!!!

 強烈なまでの魔導の力が発せられた。
 直後、ラファエルの握った剣が見る見るうちに鮮烈な光を発し始め、そのままヒイロ目掛けて振り下ろされた。
 それをかわす為に、ヒイロは勢い良く後方へ飛ぶが―――
 ザァァァン!
 ヒイロの鮮血が飛ぶのと同時に、右肩のあたり一体に、焼けたように深く切り付けられた痕が即座に出来た。
「っ!!!」
 確かに剣は避けたが、魔導は届いた。
 ラファエルが今使うその技は、まさに魔導剣。

 兎に角、一旦何が何でも距離をとらねば、銃を握るヒイロには手が無い。
 いつもと違い、ヒイロの背に彼女が居ないのだ!
 つまり、この狭い空間で安易に弾丸を放てば、位置的に命中しないなんて可能性は無い。ヒイロの表情が僅かに歪む。
 だがそんな中、ヒイロの視界の隅に写ったのは、勢い良くこちらに向かってくるリリーナで!
「リリーナ、出てくるな!!ツ!!」
 叫んだその隙に、ヒイロは肘で払われるようにして後ろに吹き飛ばされる。
「っ!!」
 ガァァッァン!!!!!!
 ラファエルはヒイロの言葉にますます怒りを募らせる。
「貴様は!リリーナ、リリーナと、何様のつもりなんだぁぁ!!!」
 休む暇もなくヒイロに向かってラファエルの渾身の一撃が振り下ろされる。
 辺りは、けたたましい轟音と共に、吹き飛ばされた床や壁の破片で噴煙が上がった。
「ヒイロ!」

 しばらくしてリリーナは噴煙の中に未だに激しくやりあう二人を確認した。
 どうやらヒイロは、今の一撃はかわしたらしいが、明らかに押されている。先程から剣を受けているのはナイフが刺さっていない左手で、ナイフが刺さったままの右腕は、リリーナから見ても、明らかに動きが鈍い。
 兎に角、この戦いをやめさせる為にもリリーナは、ラファエルの剣に込められた魔導を解こうと、勢い良く剣目掛けて腕を振るが、何の変化も無い。
「な!」
 水が苦手だとか言っている場合ではないというのに!
 全く魔導の威力が定まらない。
 リリーナは苦しむように唇の端を噛む。

 しかし、リリーナがそんなことをしている間に、ヒイロはリリーナが今、しようとしていた解除魔導を放つ。
 そして、もっと広い場所へと移る為に甲板へと向かって走り出した。この場所では何時までたっても、分が悪すぎる!
「あ!ヒイロ!」
 リリーナがそう叫んだその横では、ラファエルもヒイロを追うようにして走り出してしまった。
「ラファエル!待ってください!」
 しかし、リリーナの声は全く届かず二人は駆け抜ける。
「あ!もう!!!」

 すぐにリリーナも二人の後を追うとしたが、ジェイクをこのままにしておくわけにもいかない為に、シスター達を大声で呼ぶ。
 だが、居るはずの部屋からは誰一人として出てくる気配が無い。
 その為、リリーナは部屋の戸を勢い良く開けると、やはりシスター達はそこに居た。
「お願いです!ジェイクと兵士達の介抱を…シスター?」
 リリーナがシスター達を見ると、皆、先程の廊下での騒ぎで震え上がっており、声すら出ないでいる状態だった。
「シスター!もう平気です。だから…」
 そんな状態の彼らに更にリリーナが言葉をかけている所に現れた。
「無理無理。放っておけって」
 デュオが気配もさせずに、すぐ後ろにいた。
「デュオ!」
「やけに騒がしいからさ、ちょっとこっちも立て込んでたけど、見に来てみれば。あいつ。何でいるんだ?」
 こんな状態だというのに、大してあわてる様子も無くデュオは話す。
「デュオ!そんなことよりも、ジェイクと彼らをお願いします。わたくしは二人を止めてきますから」
「止めるって、あいつらを?やめとけって。あいつらは一度、思いっきりやらせてやった方が良いんだよ」
 あまりのデュオの言葉にリリーナは一瞬耳を疑いそうになる。
「やらせるって…何を言っているのですか、デュオ!彼らの戦いは無意味です!ジェイクがこうなったのは、ヒイロがわたくしを!!」
 そこで突然リリーナの言葉が突然止まる。

「………………………」

 何を言おうとしたのだろう、わたくしは。

 ジェイクと対峙し…ヒイロは、あの時…わたくしを…わたくしは。

「護ってくれた?」
 リリーナはまるで心を読まれているかのようなデュオの言葉に、ビクリとする。
 そして、そんな心中を悟られないように、リリーナは何とか口を開く。
「…………………兎に角、ヒイロは怪我をしています」
「ああ。やっぱり、かばったからな」
 デュオは呆れたように言う。
「やっぱり?…デュオ?では、まさか、あのナイフは貴方が!」
「ああ」
 デュオは隠す風も無く、あっさりと答える。
「普通に投げたってどうせ避けられるからな。お嬢さん目掛けて投げてみたんだ」
「デュオ!貴方は、ヒイロが心配ではないのですか!」
 リリーナの声にはある意味、先程のラファエル以上に怒号が含まれている。
「心配って…」
 自分から言わせれば、ヒイロからもっと酷い仕打ちをこれでもかと言うほど、受けているんですが…等と、頭で考えていると、ぴしゃりと言われた。
「もういいです!」
 そしてリリーナは、シスター達に視線を戻す。
「さあ、立って」
「ですが…その…スミマセン。足が…」
「怖いのは解ります。ですが、今、わたくしはあなた方の力が必要なのです。力を貸してください。彼は早く治療をしなければ間に合いません。同時にあの二人も止めてこなければなりません」
 リリーナの声はデュオと話していたときとは違い、凛として部屋に静かに響き渡る。
「これ以上は言いません。わたくしは彼らを止めに行きます。だから、貴方方に彼らを託します。お願いします」
 そう言うとリリーナは二人が去った方向へ一直線に向かっていった。


 そんなリリーナのうしろ姿を見ながらデュオが呟く。
「お嬢さんはさ、あいつを見くびり過ぎだよ―――」


 ナイフ。
 ラファエルへのハンデのつもりで右腕を潰してはやったが、それだって足りるかどうか怪しいもんだ。
 そこに居るジェイクの二の舞になりかねない。
 次は翼を持っていかれる、なんてことにならなければ良いが。


「あ〜あ。ったく。仕方ねえな」
 デュオは天井を一瞬仰ぐようにして、そう声を出す。
「ほら、シスター。さっさと動こうぜ。でないとお嬢さんに今度こそ聖都は駄目だって、使えないって雷がおちるぜ。ほらほら、立った、立った。オレの知ってるシスターはこんな時、誰よりも率先して動いていたぜ。ぼやぼやしてると本気で取って食われそうな勢いで怒られたもんだ。ほらほら。オレもさっさと通信室に戻らないと結構列車の方もやばいんだからさ」
 デュオがそう言いながらジェイクの治療を開始すると、その姿を見てようやくシスター達ものろのろと動き始めるのだった。



 一方。
 甲板では突然現れた二人に、作業中の誰もが驚きを隠せずにいた。
 誰の目から見てもラファエルが二人居ると、事態が全くつかめないまま逃げまどっている。


「ヒイロ・ユイ。貴様はどこまでも。姫様は我々と行くのが一番良いというのが何故解らん」
 ラファエルは大空に飛び上がると、急降下するようしてヒイロに襲い掛かるが、僅かな所で避けられ、反対に弾丸を放たれる。
「あいつはそんなことを望んではいない」
「だが、お前といるよりは遥かに良い!羽ビトの王族を護るのは昔から聖騎士の務めだ!騎士でもなんでもない、お前ではない!規則も、仕来りも、伝承も、何一つ学んでいないお前ではない!!!!!」

 ドクン

 オレデハナイ?

 ラファエルが一直線に突っ込んでくる。

 解っている。
 そんなことは嫌と言うほど理解している!

 ラファエルの言葉が、ズンと想像以上にどこまでも重く突き刺さる。
 どこまでも!
「言いたいことは、――――それだけかぁぁぁぁぁ!!!!」

 ヒイロの怒号が辺り一帯に響き渡るようにして木霊し、二人の体と体が激しくぶつかり合う。

 ザァァン!!!

 ヒイロとラファエルの激しい銃と剣の応酬が続く。

 ダァン!
 ヒイロは再びラファエルと僅かな距離が出来ると、迷うことなく、右腕に刺さっているナイフを血が溢れ出す事も気に止めず、左手で勢い良く引き抜き、向かって来るラファエルに対して、今度はこちらからも走り出す。
「うぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「だあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 ラファエルが一直線に正面から突いてきた剣を、ヒイロは頬と前髪が切りつけられることにも構わず、殆ど避けずに、そのまま前に勢い良く踏み込むと、左手で握るナイフの切っ先をラファエルの右肩の鎧の僅かな隙間に狂いもなく力の限り押し込むようにして刺し、ねじる。
「ガッ!!!!」
 刹那、ラファエルの苦痛の声と共に、義手である右腕の一部が肩からはじけ飛ぶようにして散った。
「な!」
 その様子に驚愕を見せたラファエルの僅かな隙に、ヒイロは更に右腕目掛けて弾丸をあびせる。
「っ!!!」
 ラファエルは即座に翼をも利用し、ヒイロと距離を取る。


「ハァハァハァ……」
 ラファエルも流石に肩で息をする。
 とっさに避けはしたが3,4発は確実に右腕に命中した。
 これは予想だ。
 そうだ。右腕は、動きはするが、感覚がまるでない。義手とはいえ正常ならば感覚があるのだ。
 だが、それが全くない上、指の動きもままならない。力加減も怪しいものだ。
 自分の義手は通常よりもずっと重く、頑丈に出来ており、今の今まで誰一人としてこんな真似をしてきた者などいないというのに、それを奴は!!奴は!

 義手のために、自分は今までどれだけ、皆からいとわれてきたか解らない。仲間であるホワイトファングの者達にですら、さげすんだ扱いをずっと受けてきた。戦場で義手が破壊されたらどうするのだとか。聖騎士にそんな明らかに弱点がある者が入るなど断じてならないだとか――――。
 だから自分は、人の倍以上訓練に明け暮れた。義手が弱点だというのならば、反対に壊せるものならば壊してみよと、戦って、戦って、戦い続けたと言うのに!
 
 怒りと自らの不甲斐無さで、一瞬全てを投げ出してしまいそうになるが、それでも、まだ、剣を握ることは出来る!

 動きや力加減が利かなかろうが、剣だけを握ることが出来ればいい!
 初めて義手をつけた当初も、そのことだけを念頭に自分は進んできたのだ。

 姫を……!姫を自分の手で護る為に!

「お前ではない!」
 糾弾するようにラファエルはそう叫ぶと、両腕で力の限り剣を握り、雄叫びを上げて向かって来た。
「うぉぉぉっぉぉ!」
 それに対しヒイロも正面から逃げずに迎え撃とうと、鈍い動きの右手にも銃を握り、弾丸を放とうとした瞬間!
 
「もうやめなさい!」

「「!」」
 ヒイロとラファエルの瞳が驚愕で見開かれる。
 ヒイロを背にするようにして、リリーナが二人の間に割って入るようにして現れたのだ。
 距離にして三人の間は殆どない。

 その為、ラファエルの剣はまっすぐにリリーナ目掛けて振り下ろされてくる!
 だというのに、リリーナは頑として両腕を広げたまま、避ける気配も無い。
 止まらない!
 ラファエルの、半分壊れた義手の右腕は言うことを利かない。
「姫ェェッェ!!!」
 ラファエルの絶叫が辺りに響く。

 元々この距離で止めるなど不可能だったのだ!
「!!!!」
 切られる!!
 周りにいた者を含め、そう誰もが息を呑んだ。

  だが――――
 立ちふさがるリリーナの顔の後ろから勢い良く伸びた一本の腕によって、剣はがっちりと掴まれる。
 ヒイロだ。
 剣が掌に深々と食い込もうがぶれることすらない程に、がっちりと剣の勢いを止める。とっさに魔導を掌に込めていなければ、間違いなく全て切り落とされていた程の力をだ。
 それでも流石に、込められた力全てを受け止めることは難しく、剣を掴んだ腕は相当の力でリリーナの肩にかかるようにして降りては来たが、そこで止まる。
「!」
 そして顔のすぐ真横で止まる剣を、リリーナが確認する間もなく、ヒイロは剣を止めていない方の腕で握られたままの銃を容赦なくラファエルに向けて放つ。
「ヒイロ!」
「邪魔だ!どけ!」
 やめるように叫ぶリリーナに対して、ヒイロは怒号を込めて叫ぶ。
「どきません!もうやめてください!」

 しかし、一向に退こうとしないリリーナに対し、後ろで、方膝をついているラファエルまでもが、下がって欲しいと訴えて来た。
 そんな二人の態度に、とうとうリリーナがキレる。
「いい加減にしなさい!わたくしはどきません!どうしてもやめないと言うのであれば、わたくしが相手になります!わたくしを倒してから好きなだけやればいい!」

 リリーナの予想もしなかった言葉に、二人は何を馬鹿なことを、と、一瞬虚をつかれたような表情を浮かべるが、彼女は本気だ。
 全身が凍えるほどの風が吹き荒れる甲板で、リリーナはノースリーブのまま寒さをおくびにも出さず、二人に、自分は一歩も退くつもりは無いと鋭く睨み続ける。

「どんな理由があろうと、これ以上、わたくしの前で争うことは許しません。お互い、銃を剣を今すぐ、おろしなさい」

 リリーナの声が甲板に凛と響く。
 そんなリリーナの態度に、どうしたものかといった、何とも言えない表情を浮かべたまま二人はただ立ち尽くしている所に、一人のシスターが、まさに気が狂わんばかりの勢いでやってきたのだった。





2005/11/6


#14星と空とを海で割ったようなプルシャンブルー9

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